『イヴの眠り』は吉田秋生の漫画作品。
かつて奥神島を襲った悲劇から18年の月日が立っていた。ハワイ島に生まれたアリサ・クロサキは、父のケン、母のルー・メイ、弟のシンジと共に健やかに育ち、「龍の娘」と呼ばれる気品溢れる美少女として周囲からも一目置かれる存在。しかし彼女は幼少時より時折信じがたい不思議な力を見せるときがあり、それゆえ彼女を畏れて忌み嫌う者もいた。実は彼女の出生には秘密があり、アリサは本当はケンの子ではなく、ルー・メイとただ一夜を共にした別の男との間に出来た子であった。バイオテクノロジー分野での世界的企業・ネオジェネシス社に神経細胞成長因子という改造遺伝子を組み込まれ、現生人類の能力を遥に上回る新人類(ネオジーニス)として密かに生み出されたその男の名は、有末静。現在では、世界最大の製薬会社・雨宮ケミカルグループ社長・雨宮凛と名を変えて籍を置く謎多き人物である。ある時、気晴らしにバイクでドライブしていたアリサは、この頃よく目の前に現れるようになった見ず知らずの「森の妖精(メネフネ)のような少年」の指差す方向を観る。すると、定期便ではない一機の飛行機が島に到着するところだった。一方、そのプライベートジェットに乗ってハワイ入りした中国経済界の首領シン・スウ・リンの息子・烈(リエ)は、到着早々に部下を連れ自らクロサキ家を訪れる。かつての知り合いの息子の突然の訪問をルー・メイは快く迎えるが、その口から語られたのは思ってもいなかった事実だった。烈は、死んだ双子の弟・雨宮凛に成り代って雨宮財閥を動かす有末静と父シンの極秘ホットラインが何者かによってハッキングを受けたことを告げ、父シンの命を受けクロサキ家の人間に自分たちの庇護下に入るよう説得しにきたのだ。人類史上最高の天才である静のシステムに入り込むことは、常人では考えられない。おそらく以前日本で起こった事件の関係者が深く関与していると思われるが、その正体はシンですら未だ全容を掴みきれていなかった。ひょっとしたらアリサの出生の秘密も知られてしまったかもしれない。奥神島事件後に表舞台から姿を消したはずの新人類の子供がいると知れたら、間違いなく事情を知る関係者の標的になるのは目に見えている。その事実を関係者以外の誰かに知られてしまった以上、アリサを無防備に放置しておくことはあまりに危険すぎるのだ。事の重要性を懸命に解く烈だが、家族を余計な危険に曝したくないと考えるケンは、自分たちをそっとしておいてほしい、とこれを拒否。ケンとルー・メイは島で見かけないものが2、3日前からクロサキ家の様子を窺っていることをそれとなく気付いており、いざとなれば元傭兵である自分たちが親として娘のアリサを守るつもりでいたのだ。予想された事とはいえケンの頑なな態度とアリサが不在だったことから、仕方なく烈はその場を引き下がり、一旦出直すことにする。翌日、烈たちがふたたびクロサキ家を訪問すると、アリサの弟・シンジ以外は留守にしていた。「姉さんに会わせてくれ」という烈の直球の質問に、シンジが思わず突っかかる。その慌てた様子から、アリサだけが己の出生の秘密を知らされていないことに気付く烈。とそこにアリサ本人が突然現れる。烈はアリサのあまりの美しさに見惚れつつ、咄嗟に「シンジとメル友で夏休みを利用してハワイに遊びに来た」と取り繕うが、前の日に「少年」から啓示を受けていたアリサは、烈に島の案内をする、と言ってツーリングに連れ出した。心配したシンジと小英ら烈の側近たちは車に乗り込みその後を追う。猛スピードでバイクを飛ばしアリサたちが向かった先は、公道から30分ほど外れたところにある滝壷だった。アリサによると、ここには強い霊力(マナ)が宿っているという。と突然、烈が滝の上に男の子がいると言い出した。自分にしか見えないと思っていた「少年」が烈にも見えていることに驚いたアリサは、その「少年」が自分は9歳の頃から見えていること、そしてその「少年」は「森の妖精」とは少し違って、自分に何かを教えたがっているように感じていたこと、そして「少年」が指差したのは烈の事だとすぐに判ったと言い、霊力の宿る聖なる場所で嘘はつくな、と烈に来訪の本当の目的を言うように迫る。アリサの心の中で全てを知る覚悟ができていることを確認した烈は「自分は君を守りに来た」と言い、正直に目的を告げる。しかし、それがアリサの出生の秘密に深くかかわることまでは口にしなかった。だが真相を隠すことでアリサを救いに来た理由を上手く説明できない烈を、アリサは一笑に付して、自分の身は自分で守ると突っぱねる。思わず止めに入る烈を軽く投げ飛ばし、「自分は龍の娘だから誰も手出しは出来ない」と言うと、烈は、自分が生まれた時に風水師から「この子は龍の血を受け継ぐ娘を妻に娶るだろう」という神託を受けているから、アリサは将来自分の妻になる人なのだと突然プロポーズする。これにはさすがに呆れたのか、アリサは「折角観光に来たんだから、月の女神の祭りを見ていくといい」と言い残してその場を去る。同じ頃、クロサキ家を烈の父・シンが自らの危険を顧みずに来訪していた。シンはケンとルー・メイにハッカーの正体が判ったと告げ、一枚の写真を見せた。それを見たクロサキたちは愕然とする。そこに写る人物は20歳前後にしか見えない有末静の姿そのものだったのだ!しかし写真の男は、静や亡くなった雨宮凛とは明らかに違う人物と判る、鋭く冷たい氷のような暗い瞳を持っていた。それはまるで人間味の感じられない人外の殺人鬼を思わせた。考えられることは、静がネオジェネシス社にいるときに保管された体細胞が何者かに持ち出され、新たにクローンが作られた、というのが有末静自身の出した見解だ、とシンは言う。実際この男は「死鬼(スーグイ)」と呼ばれ、中国の闇組織・赤蠍(チーシェ)と共に行動しているらしい。この男を生かしておけば必ず世界に厄災を撒き散らす。そして極秘回線にハッキングしてきた以上、ごく近い将来に何らかの意思を持ってアリサに接触してくることは間違いない。もし「死鬼(スーグイ)」が本当に静のクローンならば、静と同じ運動能力を持っている可能性が大きく、そうなれば人間の手で守るのはほぼ不可能。このままではアリサが危険に晒されるだけ。事態は、ケンらが思っていた以上に切迫していたのだ。その頃、月の女神の祭りで巫女の踊りを舞うアリサは、自分に送られてくる禍禍しい絡みつくような視線を感じ取っていた。その先を追うと、ヨットパーカーのフードを目深に被り傍らの椰子の木に腕組みをしている1人の男が居た。周囲の心配をよそに、死鬼の手は既にアリサに伸びようとしていた…
吉田秋生-イヴの眠り 全05巻 (Zip/211.9MB)
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